Google News Initiative(GNI)とFTストラテジーズEMEA初のアルムナイサミット「News In the Digital Age(デジタル時代のニュース)」が先日開催されました。GNIプログラムにご参加いただいた多くの出版社の方々をお迎えし、大手メディアのエグゼクティブ、コンテンツ制作者、業界の先駆者の方々をはじめ、ニュースエコシステムの各方面に携わる方たちの見識に触れながら、コミュニティの形成と知識の共有に資する1日を実現できたこと、主催者として大変嬉しく思っています。

中でも、パネルディスカッションや分科会は、多くの皆さまにお楽しみいただき、報道業界が直面している中核的なテーマを深く掘り下げる機会となりました。以下に、話し合いの中心となったアイデアや、議論を交わす中で生まれた興味深い考えをまとめています。

詳細は、各パネルの下記リンクからご覧ください。

EMEAにおけるニュースパブリッシング業界の健全性と将来性

ビジネスと倫理、双方の観点からみたメディア業界の持続可能性については、どの出版社やジャーナリストも頭を悩ませています。本パネルでは、「どうすれば報道の将来を本質的に確かなものにできるのか?」という大きな問いへの答えを探りました。

この答えを導き出すには、多くの意見、洞察、信頼性の高い指標が必要です。本パネルでは、リサ・マクラウド(FTストラテジーズのEMEAエンゲージメント責任者兼プリンシパル)、ラスムス・ニールセン氏(ロイタージャーナリズム研究所ディレクター)、ダグラス・マッケイブ氏(エンダースアナリシス社のCEO兼出版技術担当ディレクター)、シュウェタ・バンダリー氏(GNIのエコシステム戦略およびデジタルグロースプログラム、ニュースパートナーシップ担当)と共に、重要なポイントを考察しました。

  • ここ数年間で起きている一連の危機的状況によって、ジャーナリズムの様相は変わり、世間が情報を手に入れる方法も変わりました。一般的な「ニュース」と政治などを扱う「ハードニュース」の区別が曖昧化している中、出版業界では、自社情報を他のインターネット情報と区別化し、ニッチ分野を見つけ、エンゲージメントを促進するための核となる付加価値を探ることの必要性が浮き彫りになっています。
  • 出版社はそのパーパス(存在意義)やミッション(使命)を念頭に置きながら、ローカルニュースや地域コミュニティにも目を向ける必要があります。実際に、ローカルメディアの健全性と民主主義は関連していることが、多くの研究で明らかになっています。
  • 中東地域とアフリカには大きな課題や障壁がありますが、同時に多くの洞察や有意義な教訓も得られます。なぜなら、こうした地域では政治や経済の課題が絶えず発生しており、消費者の習慣も急速に変化しているため、出版社の適応力や柔軟性が養われるからです。ラスムス・ニールセン氏の言葉を借りれば、彼らの変革への取り組みはまさに、「火の中で生まれた」ものと言えます。
  • 若者が従来のメディアを信頼しなくなってきていることは事実であり、このことは「選択的ニュース回避」の増加としても表れています。しかし、これは全体像の一部にすぎません。現実世界ではより大きな社会的・政治的な力が、各機関に対する信頼の全体的な低下といった背景を作り出しており、メディアもその中の1つに過ぎないのだ、とニールセン氏は指摘しています。こうした背景をふまえ、十分なサービスが行き届いていないコミュニティやメディアの行動を深く理解することは、出版社がこうしたコミュニティにリーチするための戦略立案に役立ちます。ダグラス・マッケイブ氏は、「例えば、若者が"ニュース"に関心を示さない傾向は歴史的な事実として明らかですが、現代の若者は昔よりもはるかに幅広いメディアを利用しています。つまり、彼らはソーシャルプラットフォームを利用したついでにニュースに触れている場合があり、これはこれまでになかった機会なのです」と述べています。

FTストラテジーズのプリンシパル、リサ・マクラウドが専門家パネルのモデレーターを務める。(左から順に)ラスムス・クレイス・ニールセン氏、ダグラス・マッケイブ氏、シュウェタ・バンダリー氏
FTストラテジーズのプリンシパル、リサ・マクラウドが専門家パネルのモデレーターを務める。(左から順に)ラスムス・クレイス・ニールセン氏、ダグラス・マッケイブ氏、シュウェタ・バンダリー氏

データインサイト領域の影響力の拡大

本パネルでは、出版社、特に小規模で地域密着型の出版社に対し、データを最大限に活用し意思決定に組み込むための実践的な例を共有することを目的に、データカルチャーを構築するための必要条件について議論しました。このセッションで得られた興味深いポイントをご紹介します。

  • 閲覧回数やコンテンツに関する指標は、多くの編集局がすでに活用していますが、最近ではユーザーや傾向に関する分析の試みも広がりつつあります。デア・シュタンダルト社の製品責任者であるフロリアン・スタンブラ氏は、同社の大規模な口コミコミュニティを活用して、読者、特にエンゲージメントの高いコメント投稿者グループである「スーパーユーザー」に焦点を当てた取り組みを紹介しました。同社は、コミュニティの活動状況を測定する指標を設定したり、スーパーユーザーからコンテンツや製品に関するフィードバックを収集したりする取り組みも行っています。
  • データカルチャーの構築を検討している出版社は、自社内におけるデータ信頼性の構築や保護を行う必要があります。なぜなら、中には、提供されるデータ量の多さに圧倒されてしまう人もいるからです。GNIのグローバル責任者兼Google Insights共同創設者であるヴァレンティン・コーンズ氏によると、小規模な編集局がデータツールを必要とする理由の多くは、分析を担当する専任リソースに投資する予算がないため、とのことです。News Consumer Insights(NCI)のレポートやGoogleアナリティクスが使われるのは、そのよい例です。
  • 本パネルでは、データカルチャーを創造するためには、データにアクセスするだけでは不十分であるという意見に皆が同意しました。FTストラテジーズのデータサイエンス責任者を務めるオリ・エリオットは、コンテンツ制作者やプロダクトマネージャーにデータを駆使するよう迫るシニアリーダーの重要性や、アナリストが提供するサービスを利用する意思決定者のニーズをアナリスト自身が理解するよう努めることの大切さを強調しました。
  • 可能であれば、データアナリストをコンテンツ制作や商品/サービス開発に巻き込んで、これらの部門のニーズについてアナリストが深く理解することが重要です。フィナンシャル・タイムズのインサイトアナリティクス担当ディレクターであるルーシー・アレクサンダーは、自身のチームのアナリストが組織の中枢となるチームと密に連携をとりながらも、厳格さを保ち組織全体に関する情報を得ることができている仕組みを説明しました。

成長に向けた組織作り

野心的な目標の設定や、ノーススターメトリック(重要指標)のフレームワーク開発は、収益性が高く持続可能な直販型(D2C)の収益源獲得に向けたプロセスの始まりにすぎません。しかし、ノーススターメトリックを有効にするための組織体制やプロセスの確立は非常に重要です。なぜなら、それらが整っていなければ、この指標は、その他の目標や管理ツールの内の単なる1つになってしまう恐れがあるからです。こうした状況を回避するためには、成長に向けた組織作りの4大原則である「エンパワーメント」「コラボレーション」「トランスペアレンシー」「エビデンスベース」が確立された組織を作り上げる必要があります。

このパネルでは、イザベル・キャンベル(フィナンシャル・タイムズ社プロダクト&テクノロジーおよびポートフォリオ&プログラム担当バイスプレジデント)、レオ・シャビエル氏(オブザベイダー社プロダクトマネジメント担当ディレクター)、ニコラス・ホームズ氏(Google社EMEAニュースエコシステム&ストラテジーマネージャー)が登壇し、3つの主要テーマについて議論しました。

  • 成長に向けた組織作りには、たゆまぬ努力が必要です。フィナンシャル・タイムズでは長年にわたってこうした組織作りに取り組む中で、「成功の達成」を完璧に実現することは不可能だが、絶え間なく前進しつづける存在ではいなければならないことを証明しています。コミュニケーションは、組織が最初に何をする場合においても重要な要素です。だからこそ、様々な部署の代表者が一堂に会して、今後に向けた計画を立てる作業は非常に重要なのですが、それだけでは十分とはいえません。共に働くすべてのメンバーがノーススターメトリックのフレームワークに則って仕事をしている意識を持つ必要があり、そこから真のコラボレーションは始まります。このようにグループ内で共通の言語を持つことで、コラボレーションは円滑に進めやすくなります。そして当パネルに登壇した3名のパネリスト全員が、ビジネスにおける共通言語はデータであると考えています。
  • 成熟度を問わず、あらゆる出版社がこれらの原則を最初のステップとして取り入れるための実践的な方法には、次のようなものがあります。情報を共有するためのプラットフォームを見つけることが、データを組織全体の共通言語とするのに役立ちます。ダッシュボードの活用、電子メールでの最新情報の配信、対面での学習セッションなどはどれも、初期段階に適した方法と言えます。同じくらい重要なのが、試行するための創造的余地を確保することです。スタッフは常に多忙ですが、適切な自己決定権を持たせることで、イノベーションは開花します。FTストラテジーズのレポート[「成長に向けた試行の芸術と科学(The Art and Science of Experimentation for Growth)」]には、多くの事例が掲載されていますので、ぜひご覧ください。出版社がどのように取り組みを開始するにしても、社内で定期的にミーティングを行い、一致団結して問題に対処することが非常に重要です。
  • 業界を広く見渡せば、真似をしたり取り入れたりできる取り組みの例はたくさんあります。規模を問わず、様々な出版社が同じ問題に直面し、同じような解決策で問題を乗り越えているということは、励みになる一方で混乱にもつながります。したがって、方法論や学びの共有は非常に有意義なことです。出版各社は常に、世界中の同業者とコラボレーションする機会を模索するとよいでしょう。また、大企業の事例からインスピレーションを得るという手もあります。例えば、Googleが重視しているオフィスデザイン(コラボレーションの向上につながるマイクロキッチンなど)や、同社がグローバルな目標の実現に向けて活用しているOKR(目標設定と管理のフレームワーク)などが例として挙げられます。FTストラテジーズのレポート[「サブスクリプションビジネスの成長に向けた組織作り(Organising for Subscriptions Growth)」]では、その他多数の事例を紹介していますので、ぜひご覧ください。

FTストラテジーズでシニアマネージャーを務めるティム・パートが「成長に向けた組織作り」パネルのモデレーターを務める。(左から順に)イザベル・キャンベル、ニコラス・ホームズ氏、レオ・シャビエル氏
FTストラテジーズでシニアマネージャーを務めるティム・パートが「成長に向けた組織作り」パネルのモデレーターを務める。(左から順に)イザベル・キャンベル、ニコラス・ホームズ氏、レオ・シャビエル氏

プライバシーファーストな未来に向けて

プライバシーに関する法令、消費者行動の変化、オンライントラッキングの規制(サードパーティCookieの使用など)はすでに、マーケティングや広告における既存手法を根底から覆すほどの影響を与えており、その影響はさらに拡大していくと見られています。

当パネルでは、アン・ツオミスト・インチ氏(Google社プライバシー&Chromeパートナーシップ担当責任者)、ジョー・ルート氏(Permutive社CEO兼共同創業者)、カトリーナ・ブロスター(フィナンシャル・タイムズ社マーケティングパフォーマンス&テクノロジー担当ディレクター)の3名が、核となる3つの質問を中心に、活発な議論を交わしました。

  • 具体的にどのような影響があるのでしょうか? Apple社のiOS変更や、Cookieへの同意が義務付けられる現在の環境下では、マーケティング担当者が対象オーディエンスにリーチすることが非常に難しくなっており、オープンウェブを介して追跡できるオーディエンスは全体のわずか30%です。実際、サードパーティCookieが非推奨の場合、従来のマーケティング戦術(Cookie情報に基づくリターゲティングなど)は困難を極めます。その結果、オープンウェブにおけるCookieデータの減少につながり、ファーストパーティのデータ資産を持たない企業にとっては、広告のCPM(インプレッション単価)と全体的な収益が減少してしまいます。
  • このような変化を好機に変えるためには、出版業界はどのような戦略が取れるでしょうか? 出版各社は、広告技術プロバイダーやマーケティング会社と協力して、「プライバシーサンドボックス」イニシアチブの一環として設計されているプライバシーに配慮した技術をしっかりと理解し、テストしなければなりません。FTはここ数年、マーケティングと広告の未来に焦点を当て、FTのファーストパーティデータ戦略を実行するための部門横断型チームを設置してこの課題に取り組んでいます。匿名読者の特定と、マーケティング部門や広告部門の活動に役立つようなデモグラフィックデータの収集に重点を置いており、両部門が同じ目標に向かって尽力しています。また、広告費の費用対効果を高めるために、特定のオーディエンスやそれに類するオーディエンスにマーケティング担当者がリーチできる新しい技術(データクリーンルームなど)も試していく必要があります。
  • マーケティングや広告において、データの扱いは将来どのようになっていくのでしょうか? 出版業界は、クロスドメイントラッキングの規制を好機に変えられる特異な立場にあります。なぜなら、オーディエンスから直接情報を収集して、広告主に提供することができるからです(ただし、特別料金を課します)。Cookieはいずれ非推奨化されます。その進捗が遅延している理由の大半はエコシステムによるものであり、技術面はそれとは対照的に開発が進んでいます。つまりこれは、プライバシーに配慮したソリューションが、今後数年間のうちに必須となることを意味しています。

購読者収入の拡大

デジタルファーストの購読者をターゲットにした収入モデルへの移行を検討中の出版社にとって、最適なターゲットアクセス方法の選択は極めて重要です。このプロセスの鍵は、新しいデジタルプラットフォームの可能性を探って試行を重ね、読者のニーズが明確になるまで繰り返す寛容さを持つことです。このパネルでは、ジョン・スレイド(フィナンシャル・タイムズ社チーフ・コマーシャル・オフィサー)がモデレーターを務め、クリオナ・ムーニー氏(アイリッシュ・タイムズ社サブスクリプション&リーダーインサイト担当ディレクター)、リチャード・ファーネス氏(ガーディアン社ストラテジー&ビジネスディベロップメント担当最高責任者)、バーバラ・カイジャ氏(ニュービジョン社編集長)、イーロ・コルホネン氏(Google社EMEAパートナーシップ&エコシステム戦略兼ニュース&パブリッシャー担当責任者)が登壇。それぞれのビジネスで真に有効な購読者収入モデルを実現するためには、出版社はオーディエンスの声から何を学ぶべきかという点について意見を交わしました。

  • クリオナ・ムーニー氏は、実証実験を通じて、海外在住のアイルランド人読者を惹きつける糸口を特定できたと話します。海外在住読者のコンテンツ利用方法はアイルランド国内在住の読者とは異なります。海外では、アイリッシュ・タイムズのニュースは一般的に、二次的な情報源として扱われていました。そこでアイリッシュ・タイムズは、FTストラテジーズが開催したサブスクリプションアカデミープログラムに参加して、ロンドンに住むアイルランド人読者をターゲットにした試みを行い、この読者向けの特別なコンテンツ作成を依頼しました。ロンドン在住の読者に向けてFacebook上でスポンサードポスト投稿を実施し、それと並行して同レベルの「コントロール」コンテンツ(つまり、この読者層向けに特別にキュレーションされていない、通常のアイリッシュ・タイムズのコンテンツ)のプロモーションも実施しました。その結果、ロンドン在住者に特化したコンテンツは、通常のコンテンツと比較してページビューとエンゲージメント率が共に高く、ロンドン在住の読者に最も読まれたコンテンツとなりました。
  • リチャード・ファーネス氏は、ガーディアン社のミッションをメッセージにして伝えるアプローチが、どのようにして読者との間に強い関係性を育むことに成功したかを説明しました。独立系ジャーナリズムを支援するというガーディアンのミッションを明確にして周知することで、読者との間につながりが生まれ、読者一人ひとりの感情に訴えることができたと同時に、寄付に基づく無料購読を組織の目標に掲げ、実行しました。こうしたメッセージを長期にわたって伝えるという試みを行う中で、時代とともに読者のニーズやニュースメディアの状況が変化し、アプローチを廃らせることなく続けられたのです。
  • バーバラ・カイジャ氏は、ウガンダのような新興市場において購読者収入のモデルを立ち上げる際に乗り越えた課題について話しました。電子新聞の試みが失敗に終わったかつての経験を踏まえ、新型コロナウイルス感染症の流行を機に、デジタルサブスクリプションシステムの再開を前倒ししました。しかし、ペイウォールを設定したことで、顧客の新規獲得数とリピート率が減少してしまったのです。そこで、ニュービジョンウガンダのチームはデジタルレベニューローンチパッドのプログラムに参加し、FTストラテジーズのサポートを受けながら、部門横断型のコアチームを結成しました。ニュービジョンウガンダは、購読者収入を中心に据えた仮説検証を目的とする試みに着手するなど、次なるデジタル購読者収入プロジェクトの計画策定や、ビジョングループのノーススター指標策定においてサポートを受け、好機をつかんだのです。
  • イーロ・コルホネン氏は、ビジネス全体の成長を促進するような組織文化を作ることが重要だと強調しました。拡大するデジタルサブスクリプションにおいて大きな成功を収めた2名の出版社幹部に話を聞く中で、コルホネン氏は、両者に共通する主な成功要因に気づきました。それは、コラボレーションを促進し、データドリブンのマインドセットを育む組織文化への変革です。組織全体でデータを共有することで、ビジネスに不可欠なデータを社員が自身の目で確認できるようになります。また、部門の垣根を超えて結束力が強まり、ジャーナリストが分析データを確認できるようにもなります。すると、どのようなコンテンツが大きな変化をもたらし、ビジネス全体に影響を与えるのかが把握できるようになるのです。

FTストラテジーズでシニアマネージャー兼インサイト担当責任者を務めるジョージ・モンタグがパネルのモデレーターを務める。(左から順に)カトリーナ・ブロスター、ジョー・ルート氏、アン・ツオミスト・インチ氏
FTストラテジーズでシニアマネージャー兼インサイト担当責任者を務めるジョージ・モンタグがパネルのモデレーターを務める。(左から順に)カトリーナ・ブロスター、ジョー・ルート氏、アン・ツオミスト・インチ氏

オーディエンスのエンゲージメントとリテンションの向上

FTストラテジーズは、読者のエンゲージメントレベルと、リテンションや解約傾向は密接な関係にあることを繰り返し述べています。このパネルディスカッションでは、このトピックに焦点を当て、オーディエンスのエンゲージメントを向上させ、最終的に生涯価値という重要なビジネス指標を高めるにはどうすればよいか理解を深めました。本パネルでは、ジョナサン・ナイト氏(ニューヨーク・タイムズ社ゲーム担当責任者)、マシュー・ペイトン(フィナンシャル・タイムズ社SEO対策&企画担当責任者)、マティアス・ドゥーシェ氏(テレグラフ社プロダクトディレクター)、ヴァレンティン・コーンズ氏(出版社向けGoogle Insights Toolsのグローバルリード兼共同創業者)が、それぞれの専門分野について話をしました。

  • 新型コロナウイルス感染症のパンデミックはゲーム事業の転換期となった、とナイト氏は話します。2020年以前、ニューヨーク・タイムズは、英単語のスペリング力を競う大会であるSpelling Beeへの関心が高まったことをきっかけに、よりSNSやモバイルアプリに馴染みのある若い世代の購読者数増加を経験しました。これを機に、ニューヨーク・タイムズの全社員に対し、ゲーム業界の大きな可能性を徐々に周知し、最終的にWordle(ワードル)の買収が実現しました。Wordleは、Twitterのフィードで目にする機会が少ないにも関わらず、購読者の間では常に高い人気を誇っています。そのエンゲージメントは今や、Whatsappのようなプライベートチャンネルにまで波及しており、ユーザーはWordleの結果をプライベートチャットで常に共有し合うほどです。その結果、1週間でニュースとゲームの両方を閲覧した購読者が、特に高いリテンション率を維持していることが明らかになりました。
  • マシュー・ペイトンは、読者が知っている重要なことと、彼らがその時興味を持っていることは異なるため、コンテンツの作成においては常にそのバランスを取る必要があると指摘しました。専門的なニッチ分野に精通したFTにとっては容易かもしれませんが、重要なことに焦点を当てたり重要なストーリーを抽出したりすることを常に優先すべきです。そうすれば、FTXトレーディングが倒産した時に仮想通貨が辿った運命のように、極度に関心が高まった瞬間にもうまく対応して流れに乗れるはずです。なぜなら、読者は、より広いトレンドの中でそのストーリーの文脈を理解できるからです。しかし、プロモーションは別物であると彼は考えています。例えば、英国のEU離脱は今でもFTの読者に最もよく読まれているトピックですが、Instagramでは多くの読者を呼び込めないため、そこで大きく宣伝することはないと言います。最後にマシューは、読者コメントにこそエンゲージメントの重要な側面が現れていると指摘し、(1)明確なコミュニティガイドラインが定められたコメントスペースがあり、(2)ジャーナリストがコメント主と対話できるような仕組みがあれば、読者コメントは出版社にとって付加価値を高めるものだと述べました。
  • マティアス・ドゥーシェ氏は、現在平均して、イギリスの人口の約10%がニュースにお金を払っているという状況に対し、その割合をさらに高める可能性について強気な姿勢を示しました。同氏は、より多くの読者が、質の高いオンラインニュースにお金を払う必要があることを理解し始めていると指摘します。しかし、消費者はそれに見合うだけの充実した商品やサービス展開を期待するようになるため、テレグラフ社では、テレグラフゲームやテレグラフワインといった商品の展開を行いました。
  • ヴァレンティン・コーンズ氏は、ニュースレターの発行や再配信、プッシュ通知など、出版社が始められる具体的な戦術に焦点を当てました。特にユーザーエクスペリエンス(UX)を意識した設計が重要である一方、まだまだUXを最適化しきれていない出版社が驚くほど多いとも指摘しました。最適化の具体的な方法としては、ニュースレターの登録ウィジェットを記事に埋め込んだり、メールだけでの登録機能を設けたりするなどが挙げられますが、こうした方法は[「Google NCI tool」]で各種紹介されています。同氏はさらに、コンテンツのサンプリングも重要であると述べています。なぜなら、無料コンテンツ部分でもある程度のクオリティを保たなければ、読者がその媒体に付加価値を感じることは難しいからです。

「News in the Digital Age」イベントの様子
「News in the Digital Age」イベントの様子

多様化するオーディエンスの獲得

本パネルでは、オーディエンスの「多様性」を単なるバズワードではなく、深く掘り下げて考察しました。イザベル・ソネンフェルド氏(Google News Lab EMEA責任者)がモデレーターを務め、スピーカーにサラ・マーシャル氏(コンデナスト社流通&チャネル戦略部門グローバルエグゼクティブディレクター)、トヨシ・オグンセエ氏(BBC社シニアニュース編集者、ワールドエディターフォーラム副会長)、ルバ・カッソヴァ氏(AKAS社共同創業者兼ディレクター)、マリヤナ・セヴァー・トット氏(ユータルニ・リスト日曜版編集長)らを迎えたこのパネルでは、新しい読者層の開拓や多様な声を届けるための独自の機会の創出によって生み出されたオーディエンスの多様性が、組織の多様性にどのように関連してくるのかについて考察しました。

パネリストの方々による主な助言は次の通りです。多様な背景のもと、多様な意見を持つ人々を採用し、現状に疑問を投げかけること。編集局だけでなく組織全体の戦略に多様性を組み込み、明確なターゲット設定と測定ツールをもとに多様性とビジネスの目的を関連付けること。日常的にデータを公開し人の目にさらすこと、百聞は一見にしかず。明確なコミュニケーション戦略と、多様なデータを用いて社員の士気を高め教育する方法に焦点を当てること。そして最後に、規模を問わず成功を祝福すること。

本パネルでは、以下のような示唆に富む議論が交わされました。

  • 少数派に属するオーディエンスを理解し取り込むためには、人材や社内の構成に多様性を反映させる必要があります。サラ・マーシャル氏は、エドワード・エニンフルが「British Vogue」の編集長に就任して以来、より多様性に富むストーリーや表紙を作るために行った変革内容や、その影響力について話しました。その中で語られたのは、例えば、ダイバーシティに関するマニフェストを作成するなどといったシンプルなことから始めてみることの重要性です。それによって、チームが多様性を戦略に組み込むことの社会的・商業的根拠を理解できるようになると言います。同氏はまた、現在の編集局の構成にはないトピックを取り上げたい場合、ゲストライターを招くことも重要であると述べました。ルバ・カッソヴァ氏は、変化を縦割りの組織で考えるのではなく、リーダーシップから情報収集、カバレッジと消費分析の分野に至るまで、ニュースのバリューチェーン全体で考えることの重要性を説きました。一般的に、報道機関はダイバーシティを追求することはあっても、インクルージョンを追求することはありません。バリューチェーン全体を考えることで、適切に監査と評価を行い、最終的に明確なダイバーシティとインクルージョンの目標を達成することができるのです。最近開催されたGNI主催のプログラム[「Audience Diversity Academy」]に参加したマリヤナ・セヴァー・トット氏は、ユータルニ・リスト社に新設されたジェンダーカウンシルが、男女の賃金格差の問題に取り組んだ事例や、賃金や職場でのエンパワーメントにおける不平等といった、時に耳をふさぎたくなるような話題について行ったやり取りを紹介しました。
  • 出版社には、多様性に傾くと大衆が離れてしまうという思い込みがありますが、そのイメージは正しいとは言えません。カッソヴァ氏は、多様な読者がメジャーなニュース(インフレ、戦争、気候変動など)にも関心を寄せているとする一方で、新たな視点や意見を提供していくことで、新しい読者を惹きつけながらもコアな読者を遠ざけない、独自の機会を見いだすことができると述べています。同氏はまた、規模の拡大は読者に向けた価値を追求することにつながり、そこでは多様な視点を持つことが重要である、それによって、大規模な消費者群を取り込むだけでなく、適切なタイプの消費者にリーチすることができるとも述べています。具体的には、ストーリーの主役を女性に据えること、また、記者名や情報ソースのバランスをとって意見をわかりやすく示すことなどが挙げられました。加えてトヨシ・オグンセエ氏は、既存の枠組みに捉われないためには、オーディエンスのフィードバックを取り入れた編集会議を行うことが重要であると述べました。同氏はまた、多様性に対する出版業界の意識は近年改善されてきてはいるが、大きな話題を伝える時には多様な視点を取り入れることの重要性が忘れられてしまいがちだとも述べました。メディアには、社会の複雑さや思想の多様性を反映する社会的責任があるだけでなく、その最前線に立って積極的に推進していく必要があると、彼女は強く考えています。
  • オーディエンスの多様性を測定することは非常に重要であり、そのことを複雑に考える必要はありません。マリヤナ・セヴァー・トット氏は、ユータルニ・リストが「Audience Diversity Academy」で行った試みとして、社説内でオーディエンスのジェンダー分析ダッシュボードを作成したことを話しました。そこで得られた情報は、女性読者の関心事や進化するニーズをより正確にモニタリングし、理解することに役立ったと言います。このダッシュボードは、日々の報道サイクルに組み込まれ始めており、編集局以外でも、多様性に関する気づきを生み出し促進しています。そして、コミュニケーションの明確化、既成概念への挑戦、新しい革新的なストーリーテリングのアイデア醸成に役立つだけでなく、多様性に向けたジャーニーに一人ひとりが関与することを促す役割も果たしています。

高いパフォーマンスを発揮するチームや文化の構築

本パネルでは、人材と組織文化という概念に焦点を当て、高いパフォーマンスを発揮するチームを作るためには、組織における変化にどのような影響をもたらすべきかを議論しました。パネルには、フィル・チェットウィンド氏(フランス通信社グローバルニュースディレクター)、インガ・ソーダー氏(CNNワールドワイドの元エグゼクティブエディターであり、現デジタル部門トランスフォーメーション担当責任者)、マット・クック氏(元BBC所属、現Googleニュースラボ責任者)が参加し、リニア放送、デジタル出版、グローバルニュースワイヤーに関する幅広い経験を共有しました。このディスカッションでは、4つの重要なポイントが明らかになりました。

  • パネル登壇者が、文化における変化を複数の領域にまたがって定義し周知する際の課題について、各自の意見を述べました。フィル・チェットウィンド氏は、組織のあらゆるレベルにおいて、透明性、信頼性、ミッションの明確さが重要であることを頻繁に強調しました。
  • インガ・ソーダー氏は、より多様性に富む編集局の構築に向けた動きについて熱く語りました。残念ながら、多様性が課題となっている事例はいまだに散見され、若い女性にとっては非常に厳しい状況であったり、多様なバックグラウンドを持つ人たちが馴染みにくい雰囲気であったりすることもあると言います。
  • 方法論とツールは重要な要素です。ミッションをどのように設定し、それをどのように展開するか、その成否はアプローチによって左右されます。企業文化には、愛情と関心が不可欠です。オフィス家具のレイアウトから、チームの交流のために費やす時間、コミュニケーションを簡素化するためのツールの活用まで、すべてが重要なのです。FTストラテジーズのノーススターフレームワークは、組織がミッションを達成し、そのミッションに向けてチームの足並みをそろえるための手法を提供します。ミッションを共有し、各自の役割を明確にすることは、高いパフォーマンスを発揮する企業文化を形成するための原則と言えます。
  • 編集局や幅広いニュース媒体で、「ブリリアントジャーク(有能だけれども有害な人物)」が幅をきかせる時代は終わったか、少なくとも廃れつつあります。素行の悪い社員への組織の対応が上達し、社員もそうした同僚に対処する術を持てるようになりました。ここでも、意思決定に対する透明性と価値の創出が重要になります。最終的に、価値とは犯すことのできない領域であり、ロールモデルの構築は不可欠なのです。

FTストラテジーズでシニアコンサルタントを務めるアリヤ・イツコヴィッツ
FTストラテジーズでシニアコンサルタントを務めるアリヤ・イツコヴィッツ

新商品/サービスの企画と立ち上げ

本パネルでは、ルード・ブレッチャー氏(GNIイノベーション担当責任者)、ディリヤナ・エヴティモヴァ(フィナンシャル・タイムズ社シニアプロダクトマネージャー)、ピエール・フランス氏(Rue89ストラスブール創業者)が登壇し、商品やサービスにまつわるあらゆる話題に関して意見を交わしました。

ディリヤナとフランス氏はそれぞれ、報道機関において立ち上げに成功したサービス事例について話しました。ディリヤナは、フィナンシャル・タイムズが昨年発表した、低価格で厳選されたストーリーを提供するアプリ「The Edit」の事例を、フランス氏は、2021年にFTストラテジーズとGNIが開催した2つのプログラムで開発された編集局向けインサイトダッシュボードである「Impactometer」を取り上げました。ルード・ブレッチャー氏は、新製品の展開において、世界中の多くの出版物に携わってきた経験での意見を述べ、議論を深めました。

それぞれが関わってきた取り組みの規模やサービスのターゲットは異なりますが、そこには確かな共通点がありました。

  • 各チームが同じ方向を目指して団結し、データ部門、製品部門、マーケティング部門、そして重要なコンテンツ制作部門といった異なる部門が横断的に連携することの重要性。ブレッチャー氏は、「自分が売っているサービスはジャーナリズムであるということを、一日の終わりに思い出すことが大切である」と述べています。
  • プロダクトディスカバリーは商品/サービス開発前の重要なステップ。ディリヤナは、「The Edit」を立ち上げる際に行った、広範囲の顧客調査とアイデア検証について話しました。バリュープロポジションを顧客の要望から直に作り上げたこと、また、そうした要望は、とりわけ、出版社がすぐには思いつかないような定性調査やフォーカスグループなどから吸い上げたことを共有しました。
  • データ主導でありながら、ジャーナリズムとしての整合性を保つこと。フランス氏は、記事掲載後のパフォーマンス分析にImpactometerを活用していること、一方で、クリエイティブなプロセスではこうしたツールを活用した分析は取り入れないことを話しました。

マスメディアの報道媒体を再考する

このパネルでは、特に「選択的ニュース回避」の傾向が強まる中、オーディエンスを取り込むための新しい媒体形態について、報道各社は創造力を高めながらそれをどのように捉えるべきかに焦点を当てて議論を交わしました。

各パネリストが各自の専門分野における出版事例を紹介し、革新的なストーリーテリングの手法を使って、どのようなユーザーニーズを満たしたいと考えているかなどを紹介しました。

  • エンゲージメントの低いオーディエンスを促すことを目的とした、感情に訴えかける動画制作。デイリーマーベリックの編集長であるブランコ・ブルキック氏は、気候変動問題に焦点を当てました。同氏は、今日の最も重要なストーリーに心情的に入り込めないオーディエンスが多く、それゆえに心も揺さぶられないままコンテンツから離れていってしまうことを指摘しました。そして、この状況に対処するためには、説明的なコンテンツ(すでに取り組んでいことを紹介するなど)を深く掘り下げるのではなく、感情的なつながりを生み出せるストーリー制作が必要であると考えたのです。2022年末、同氏のチームは気候変動と社会変革の現実を紹介する[最強の動画]を制作することを決意しました。バリー・マクガイアの「Eve of Destruction(明日なき世界)」の版権を購入し、南アフリカの歌手アンネリ・カムファーを起用して、気候変動の危機を伝えるニュースを重ね合わせた動画を作成したのです。
  • 複雑なストーリーをより詳しく説明する方法としてのビジュアルストーリーテリング。FTのビジュアルストーリー編集者であるサム・ジョイナーは、FTが近年提唱している新しいマルチメディアストーリーテリングの形態について、いくつか例を紹介しました。中でも、「スクローリーテリング」が持つ力について具体的に取り上げました。「スクローリーテリング(Scrollytelling)」とは、「スクローリング(scrolling)」と「ストーリーテリング(storytelling)」を組み合わせた言葉で、画像、動画、地図、インフォグラフィックス、テキストなどをスクロールしているかのようにマルチメディアストーリーを展開して伝えるダイナミックな手法です。また、昨今の話題として、トルコで発生した地震で倒壊した多くの高級不動産物件に関する[FTの調査]や、エルサルバドルの巨大刑務所で受刑者に与えられているスペースが家畜よりも狭いことに関する[調査]などについても触れました。これらの記事は、FTの中でも最も多くの読者を惹きつけるコンテンツであり、「このようなジャーナリズム精神があるからこそ、FTのコンテンツは有料でも利用したい」という読者の好意的なコメントを集めていることを紹介しました。
  • 優れたトラフィックファネルを促進するソーシャルファーストのコンテンツ。スポーツ専門メディアであるThe Athleticの傘下に入ったTifoのエグゼクティブ・プロデューサーであるジョナサン・マッケンジー氏は、同社がYouTubeで多くのフォロワーを獲得し、The Athleticのトラフィック増加に寄与している点に注目しました。ブランコ・ブルキック氏と同様に、マッケンジー氏も、デジタル時代の関心経済(アテンション・エコノミー)という現実では、差別化された優れたコンテンツを制作するだけでは十分ではないとの考えを述べました。出版業界は、この関心経済の壁を乗り越えるために、オーディエンス(通常は若い世代のオーディエンス)を抱えるチャンネル、特にソーシャルメディア上で正しくマーケティングを行う必要があります。つまり、そのプラットフォームのオーディエンスに合った口調やスタイルで語りかけるということです。TifoはYouTubeのサムネイルにとりわけ力を注いでいます。サムネイルは、インターネット上のあらゆる動画であふれかえるYouTubeのメインページにおいて、自社の動画を目立たせるための重要な要素だからです。イングランドのプロサッカークラブであるブライトンのディフェンススタイルを紹介した[この動画]は、サムネイル、動画タイトル、Tifoのブランドアイデンティティが特にうまく機能しており、マンチェスター・ユナイテッドやリバプールといった人気チームの動画を差し置いて、同社史上最も視聴数を稼ぐ動画となりました。これをきっかけに、TifoはYouTubeのサムネイルデザインに特化した専任ポジションである「ビデオサムネイルアーティスト」を創設し、専門の人材を起用しています。
  • サービスに触れる時間を増やすパズルとゲームの組み合わせ。バウアー社のパズルポートフォリオパブリッシャーを務めるジョーン・シモンズ氏は、パズルやゲームがオーディエンスのリテンションに与える影響について取り上げました。同氏は、紙のクロスワードをデジタル化する取り組みについて説明し、Wordleがメディア業界やその垂直業界に与えた影響を賞賛しました。また、ユーザーの体験をより楽しいものにするだけでなく、最初は扱うニュース記事に興味のなかった読者層にもブランドを広く認知してもらえるような、共有できるゲームの開発に注力することの重要性を強調しました。

Z世代の取り込み

出版業界の主な課題の1つに、若い世代のオーディエンスの好み、関心、熱意の対象を理解し、そのニーズに応えていくことがあります。このパネルでは、若者層とメディアとの関係、そして彼らのニーズを満たすために出版社が取り得る戦術に焦点を当てました。

ルーシー・ヘッジス氏(メトロ社のテクノロジーエディター、BBCのトラベルショープレゼンター)がモデレーターを務め、エレナ・コルチェロ氏(ダウ・ジョーンズ社のエマージングテック担当ディレクター)、ジャック・ケリー氏(TLDRニュース社CEO)、ニック・ニューマン氏(ロイタージャーナリズム研究所のシニアリサーチアソシエイト)が登壇し、次の3つのポイントについて意見を交わしました。

  • 若い世代は今でもニュースを閲覧していますが、閲覧形態はここ数年で進化しています。若者の間で主要メディアに対する懐疑的な見方が広まり、メディアに対する信頼感は一部失われているかもしれませんが、ニュースの消費や情報に対する若者の欲求は依然としてあります。最近では、さまざまな形態(多くはモバイル端末、双方向にやりとりができ、記事の内容を理解しやすい媒体)を使い、より身近に感じられる話題(自分たちが理解できる文脈の中で実在する人が語るパーソナルストーリー)に関心を持つようになっています。しかし、このような新しい消費形態は付加的なものであり、テキストなど従来の形態に取って代わるものではない点に注意が必要です。ジャック・ケリー氏は、ニュースとは無縁のバックグラウンドを持つ若い創業者である自身が自分の動画の視聴者であることに触れ、だからこそ、彼とライターチームは、コンセプトがメインプラットフォームであるYouTube上でわかりやすく「若者向けに」説明できているかどうかを深く掘り下げられるのだと述べました。
  • 出版業界は、若年層の読者について言及する際、画一的なアプローチを用いる場面が多いのですが、それは正しいアプローチとはいえません。ロイタージャーナリズム研究所の調査によると、若い世代の読者は、興味、性別、価値観などが万華鏡のように多面的であるとニック・ニューマン氏は言います。そのため、出版各社はこの読者層を取り込むために十分なリソースを割く必要があります。ロサンゼルス・タイムズの「ミームチーム(Meme Team)」や、ワシントンポストの「ネクストジェネレーションチーム(Next Generation Team)」が好例です。また、他の戦術としては、外部とのパートナーシップを活用し、新しいプラットフォームで新しいオーディエンスにリーチするという方法もあります。例えば、最近ダウ・ジョーンズ社はNetflixと提携し、「イート・ザ・リッチ~ゲームストップを救え!(Eat the Rich: The GameStop Saga)」というドキュメンタリーシリーズの配信を開始しました。そこでのメリットは、新しいオーディエンスにリーチできるだけでなく、VR、AR、バーティカル・ビデオといった新しいストーリーテリングの展開を可能にするテクノロジーについて、他者から学べるという点もあります。
  • 解説記事であるエクスプレイナーの活用は、若者を怖気付かせることなく自分たちを取り巻く世界を認識してもらうためにも、出版業界にとって未開拓の機会かもしれません。ジャック・ケリー氏は、警鐘を鳴らしたり大げさな言葉を使ったりせずに登場人物や物語を紹介するにはどうすればよいかを、常にチーム内で深く考えていると述べました。結局のところ、今の時代においても、若い世代の読者の多くは世の中で起きていることを知りたいと思ってはいるのですが、馴染みある形でその情報にアクセスできていないだけなのです。シンプルさやアクセシビリティの追求は、「ダミング・ダウン(意図的な過度の単純化)」とは違います。

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