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2023年12月8日、日本経済新聞社(以下、日経)は日本経済新聞電子版をはじめ同社が提供するデジタルサービスの有料購読者数が100万人※を突破したことを発表した。これは日本の新聞社において初めての快挙である。この素晴らしい成果の要因は、領域に特化した専門メディアの立ち上げや日経の専門性を駆使したデータビジュアライゼーションンといったコンテンツの拡充、法人契約会員向けサービスに最適化した新プランの展開など様々な施策が挙げられるが、同時にFTの手法を大いに取り入れたという事実も大きな要因の一つである。本記事では、日経が取り入れた主なFTの手法に焦点を当てて紹介したい。※2024年1月16日更新の最新データはこちら

日経は2010年に日経電子版を立ち上げ、FTを買収した2015年以降、FTの成功モデルを積極的に取り入れてデジタルトランス・フォーメーションを加速させた。彼らの編集部門に具体的に起こった変化は次のとおりである。

最初の大きな変革は、デジタル読者のニーズに合わせて入稿タイミングを早めたことだった。2015年当時、第一報は朝刊で伝えることが慣習となっており、それに合わせて原稿の締切が設定されていたが、電子版の読者の多くは朝夕の通勤時とランチタイムにサイトにアクセスする。入稿のタイミングの変更は、記者からの大きな反発を招いたものの、このタイミングに合わせて記事を更新できるよう入稿時間は大幅に前倒しされた。

日経がFTから持ち込んだもう一つの画期的なアイデアが、「オーディエンス・エンゲージメント・チーム」である。オーディエンス・エンゲージメント・チームはサイトにアクセスする読者の行動を詳細に分析し、編集部門に毎日報告を行うようになった。

日経は、さらにFTが活用している指標も取り入れている。FTでは読者とのエンゲージメントを重視しており、それを計測するためにRFVという指標を設定する。この指標は、RFV=F*√V/(R+1)という数式で算出し、このスコアが18.2以上であればエンゲージメントの高い読者であると判定している。

Recency = 最後の訪問から算出日までの日数

Frequency = 直近90日間の訪問回数

Volume = 直近90日間の閲覧記事数

日経では、これを彼らの実態に合わせてアレンジしたF*√Vという数式でエンゲージメント・スコアを計測しながら、ライトユーザーからミドルユーザーへ、ミドルユーザーからヘビーユーザーへと関係を深化させると同時に、解約率の低下を防ぐことに注力している。

日経 サブスクリプション事業デジタル編成ユニット長である江村亮一氏は、FTでも徹底されている読者理解と実証実験の導入が成功の鍵だと語っている。現在では、新しい施策を展開する前には、データ分析はもとよりユーザーインタビューを含む読者調査を行う文化が根づき、UI/UXの変更、サムネイルの位置や内容の検証など、施策を実装する前に実証実験を行っている。

現在、日経の主要KPIはデジタル定期購読者数であり、2022年に創立された「サブスクリプション事業」部門のもとで共通KPIを達成するために部門横断的に施策を推進している。

さらに2023年、日経は新たにFTのゴール設定方法を取り入れることを決定した。FTでは現在、「Global Paying Audience(GPA:FTに支払いをしている読者・イベント参加者などを含む)」という指標を設定し、GPA300万をゴールに掲げている。日経もこの指標を取り入れ、またFTを含む日経グループ全体で共通のGPAゴールを設定している。

FTの施策が日本の有力紙のデジタル読者100万達成に貢献できたのは我々にとっても非常に喜ばしい結果であり、日本をはじめグローバルの新聞社・出版社においてFTの成功モデルがさらに浸透していくことを期待したい。


著者について

著者について
西村 奈津子 マネージャー

国内外のテック・プラットフォーム企業における15年以上のマーケティング・コミュニケーション領域のスペシャリストとしての経験を活かして、エンゲージメント・マネージャーとして参加。 FTに入社する直前は、Twitter社でディレクターとして日本でのコミュニケーションを統括し、またユーザー、メディア企業、教育機関など様々なステークホルダーのデジタルおよびソーシャルメディア活用の促進にも注力。

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