サブスクリプションビジネスのシェアを拡大し、2,750億ドル規模にまで成長させるためには、何が必要なのでしょうか?

業界の調査によると、サブスクリプションビジネスはここ10年ほどで大きく成長しており、従来型ビジネスの5~8倍のスピードで拡大を続けています。そのため、オンライン小売業、プレミアムビデオのプラットフォーム、ソーシャルメディア、はたまたサンドイッチ店まで、業種を問わずありとあらゆるビジネスが既存モデルを多様化させ、サブスクリプションビジネスに乗り出す状況が来ても、驚きはそれほどありません。

一方で、サブスクリプションビジネスが急速に発展し、消費者行動が変化する中、多くの企業は正しい戦略を立ててそれをうまく実行に移すことに苦慮しています。

サブスクリプションモデルは決して万能なモデルとは言えず、その背後にあるダイナミクスも複雑で誤解されることが多いのも事実です。この記事では、組織がサブスクリプションビジネス業界のリーダーになるために欠かせない3つの戦略をご紹介します。

1. 顧客にバリュープロポジションを理解してもらう

まずは、貴社が提供する商品やサービスに見込み顧客が実際に触れて、それらを理解することが重要です。参入障壁が高い場合(出版業界であればハードニュースの有料化など)、一般的にサンプリングは難しいとされ、実際に購読者獲得を阻む要因にもなり得ます。

この現象を理解するため、フィナンシャル・タイムズは最近、非購読者向けに提供していた3つの無料記事の配信を取りやめる試みを行いました。その結果、当紙では、ウェブサイト訪問者数が約30%減少し、新規購読者数の長期的な減少が見られました。初回訪問時に訪問者全員に対して課金を強制とした場合には、79%のコンバージョンを失う可能性があり、これは顧客生涯価値における数千万ドルの損失に相当します。

消費者向けの某プレミアムクラウドサブスクリプションサービスの事例は、サブスクリプションの潜在的な収益とカニバリゼーションを起こすことなくサンプリングを行う有効な方法を示す好例です。少量の無料ストレージを提供することで、見込み顧客は課金をせずともクラウドホスティングサービスを得られます。サービスを利用して価値を感じた見込み顧客は、プロバイダー側から提示される段階的な有料サブスクリプションサービスに移行します。ユーザーとプロバイダー双方にとってメリットのある、Win-Winの仕組みと言えます。

2. 一貫した価値を提供し、それを測定する

以下は、サブスクリプションビジネスを長期的に成功させるための前提となるコンセプトです。この2つは互いに関連し合っています。

  • 購読者エンゲージメント:購読者がその商品/サービスから得る価値
  • 購読者ロイヤリティ:1ユーザーが購読者であり続ける期間

しかし、今日の市場で購読者のエンゲージメントやロイヤリティを構築することは非常に難しいと言えます。情報にあふれ競争が熾烈な環境では、アテンションやロイヤリティが低下してしまうのです。では、どうすれば企業は、これらの領域で成功を収めることができるのでしょうか?

  • 購読者を中心に据えて考える。従来のビジネスで見られる商品主導の考え方を改め、購読者に一貫した価値を創り出すという考え方にシフトする必要があります。そのためには、購読者の声に耳を傾け、データの収集と分析を行い、購読者のニーズを満たすために取り組むことが重要です。

企業文化を変えることは一筋縄ではいきませんが、不可能ではありません。欧州の大手メディアは、FTストラテジーズ協力の元、12週間かけて購読者を中心に据えた考え方へのシフトを実践した結果、6ヶ月間で購読者数を29%増やすことに成功しました。

  • 価値をバンドル化して提供する。成功している企業では、ロイヤリティを高め、顧客が購読契約を続ける理由を増やすために、既存のサブスクリプションサービスに補完的な商品やサービスを合わせるバンドル型のサービス提供を行うケースが増えています。2021年の調査では、会員登録やリテンションの動機付けとして、「さまざまなアイテムや体験を得られること」が、「価格」と「品質」に次いで3番目に重要な項目として挙げられました。これまで当社が見てきた多くの事例の1つに、とある新興企業のストリーミングサービスがあります。この企業は、バンドル型サービスの料金を基本パッケージの少なくとも2倍の料金設定で提供していましたが(定評のある競合他社の料金よりも高い設定でもある)、6ヶ月間のリテンション率をみると、バンドル型サービスの方が同社の基本パッケージや競合他社よりも高い結果となりました。
  • エンゲージメントを測定する。購読者の商品へのエンゲージメントと彼らの生涯価値は強く関連しています。企業が購読者のエンゲージメントを体系的に測定できれば、顧客をセグメント化して、商品を使用しない購読者層の解約を防ぐためにエンゲージメントの再強化を図ったり、アップセルを通して最もエンゲージメントの高い購読者層の価値を高めたりすることができます。世界各国の454名の経営者を対象にした詳細な調査に基づくFTストラテジーズの最近の研究では、データ主導型かつ顧客を中心に据えたアプローチと業績の間に強い関係性があることが示されました。(FT Strategies, 2020)

3. 試行を通じて継続的に最適化を図る

成功するサブスクリプションモデルや優れたデジタル商品/サービスの構築は時間を要すものであり、特効薬などは存在しません。だからこそ、各種試みを設計して実行し、継続的に最適化を図る企業文化を構築することが極めて重要なのです。

試行における独自の取り組みで定評のある、とあるデジタル旅行プラットフォームは、1,000以上の厳密なテストを同時進行で行い、その数は年間25,000以上に上ります。このプラットフォームは、大きなリスクや間接コストを負うことなく、何十回もの改善を繰り返し行うことができていますが、それは試行を重ねているからこそ実現していると言えます。

価値を提供する

FTストラテジーズは、何十万もの新規購読者を獲得してデジタル購読者の総数を大幅に増加できるよう、全く新しいデジタルサブスクリプションサービスのイメージ化や構築、既存のサブスクリプションモデルの最適化において、お客様をサポートします。

サブスクリプションモデルの構築は一筋縄ではいきません。しかし、サブスクリプションビジネスの成長と経常収益の具体的な増加というメリットを考えれば、拡大を続けるこの新しいビジネスモデルの検討やそこへの投資を先送りすることは、どの組織にとっても勿体ないことだと考えます。


著者について

Tara Lajumoke, マネージングディレクター
Tara Lajumoke, マネージングディレクター

FTストラテジーズのマネージングディレクター。FT参画前は、マッキンゼー・アンド・カンパニー社のロンドンオフィス、および、ゴールドマン・サックス社で欧州、中東、アフリカ、米国の担当を歴任。15年以上のキャリアを持ち、戦略、デジタル、変革に関して複数のセクターのクライアントに向けてサービスを提供している。フルブライト奨学生であり、ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得。The Bureau of Investigative Journalism(英国を拠点とする非営利の調査ジャーナリズム団体)の理事を務める。恵まれない若者の指導に情熱を傾け、3人の男児の母親でもある。

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